シェニーさんの愛息ルイス・ヴィルジョエンさんが永続的植物状態 (PVS)に陥ったのは、1995年のことだった。当時25歳だったルイスさんは、ある日、バイクでの帰宅途中にトラックと衝突して、頭部に損傷を負った。救急ヘリでヨハネスブルグの病院に搬送されたが、医師たちは母シェニーさんに「息子さんは二度と目を覚ますことがないでしょう」と告げた。
医師たちが告げたとおりだった。ルイスさんは目こそ開けることができるものの、視線は宙をさまよっていた。毎日病室を訪れる母の呼びかけに何の反応も示すことがなかった。
だが、事故から4年経った1999年に奇跡が起きる。
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当時、シェニーさんは不眠症を患っていた。地元の病院で受診すると、ゾルピデムを処方してくれた。ゾルピデムを服用し始めたシェニーさんがある日ルイスさんの病室を訪れると、ルイスさんがベッドの上でのた打ち回っていた。かといって意識を回復したわけではない。不随意けいれんが生じていたのだ。
そこで、シェニーさんは独断でゾルピデムを息子に飲ませてみることにした。"眠くなって"大人しくなるだろうと勝手に判断したのだ。しかし、この素人判断が奇跡を呼ぶ。
シェニーさんが錠剤を細かく砕いてルイスさんに飲ませてからわずか数分後、4年間も無表情だったルイスさんの顔に変化が現れた。視� ��の定まらなかった目が大きく見開かれた。その目は母シェニーさんをしっかり見据えていた。そして、ルイスさんは何か声を出し、微笑んだ。
息子が植物状態に陥ってから4年間、シェニーさんが夢に見てきた息子の笑顔だった。だがこれは夢ではなかった。シェニーさんが「ルイス、目が覚めているの?」と呼びかけると、彼ははっきりと言葉を返した。「やあ、お母さん!」
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その日以来、ルイスさんは医師らによってゾルビデムを投与されるようになった。最初のうちはゾルビデムを投与してしばらくすると、また元の植物状態に戻ってしまった。しかし、だんだんと覚醒している時間が長くなった。現在では投与を受けなくても意識を取り戻していることが多い。
ただ、まだ自力で歩くことはできない。母シェニーさんはきっと二度目の奇跡が起きてくれると信じている。
さて、南アで始まったゾルビデムの臨床試験は、ReGen Therapeutics というメディカル研究開発会社が率いているもので、現在では英国やその他の国でも臨床試験が進められている。
そしてつい先日、英国でも"奇跡"が起きた。目を覚ましたのは、エイミー・ピカードさんという現在23歳の女性。エイミーさんは6年間も呼吸器と栄養補給チューブをつながれ、昏睡状態が続いていた。
彼女が昏睡に落ちたのは、17歳のときだった。当時妊娠中の身であったにもかかわらず、ヘロインに手を出して卒倒し、意識不明に陥った。もう回復の見込みはないとされていたが、母セルマさんは決してあきらめなかった。
ある日、昏睡患者を目覚めさせる効果があると期待される薬の臨床試験が英国で開始されることを知り、娘へのゾルビデム投与を申請したのだった。エイミーさんの場合は、最初の投与で変化が現れたわけではない。
投与を開始してから4週間弱で変化が現れた。自発呼吸を開始したのである。喉に開けられた呼吸器接続用の穴が塞がれると、食べ物にも反応を示すようになった。そして、意識が回復している兆候も見られるようになった。
さらに数週間後には、ナースに両脇から支えてもらうと立ち上がることができるようになった。目の前の物や人に視線を注ぐことができるようになった。意味をなさないものの声も出すようになった。酸っぱい食べ物を与えられると顔をしかめ� ��甘い食べ物を与えられると微笑むようになった。
現在、この臨床試験には360名の患者が参加しているという。ただし、現時点で日本は臨床試験の対象国に含まれていないようだ。将来日本でも臨床試験が開始されれば、ぜひ自分の肉親にも投与を受けさせたいと願う人がきっと大勢いることだろう。
ゾルピデムにこのような効果がある理由については、調べている余裕がないので割愛させていただく。ゾルピデムの効果の詳細については、大分県の中津市民病院のWebサイトで、研修医の人が海外の論文を翻訳なさったものがPDF形式で公開されているので、そちらをご覧になると参考になるかもしれない。
ともあれ、生命維持装置を必要としている患者に対してゾルピデムを投与すると、生命維持装置が不要になる場合がある・・・という事実に筆者としては最も注目する。臨床試験によりゾルピデムの効果が確認されれば、従来のように身内の者が患者の生命維持装置を取り外すかどうかの決断を迫られることが少なくなるかもしれない。
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