-チーム・アプローチのための協力-
The Diagnosis and Treatment of Children with Learing and Developmental Problems A Community Service for Medical Group Practice
George W. Brown, M. D.
著者について……
Dr. Brownは、1967年以来ニューメキシコ州アルバカーキにあるLovelaceクリニックに勤める小児科医である。セントルイスのワシントン大学で医学博士号をとり、1955年にテネシー大学でM.S.をとった。アリゾナ州のメサで小児科医をしたのち、Mead Johnson Research Centerの臨床研究の副部長、部長を勤めた。その後助教授として、テネシー大学の小児科に戻り、医学部の総合クリニックであるUniversity's Child Development Centerの小児科医を兼任した。
小論は「グループ・アプローチによる子供の総合的診断評価」と題して、1969年にGroup Practice誌に載せられたものの概要である。なお、概要をここに載せることを快諾されたGroup Practice誌の編集長Mr. James G. Robinson(American Association of Medical Clinics, 421 King St., Alexandria, Va. 22314)に感謝する。
はじめに
発達障害児、学習障害児の診断評価や治療プログラムの作成における「チーム・アプローチ」の重要性は、医学的、心理的、教育的見地からよく言われることである。しかしたいていは、大学や医学部、他機関からの照会をほとんど受けることのないような総合クリニックなどの中にあるチームについて述べているにすぎない。専門職にある者が互いに協議して─開業医や他分野の医師と小児科医など─統合的に行う診断評価の可能性や効果、価値などについて詳しく述べたものはほとんどない。多くの医師は子供の診断評価のために、その地域の専門家が協力してゆけるようにキッカケを作れる立場にある。さらにその結果を家族に説明し、長期にわたる指導もできる立場にある。
精神薄 弱児のための巡回クリニックは、地域のチームの結成を促進してきた。しかし発達障害児や学習障害児のために、診断評価したり、治療計画を立てたりする根本的努力には欠けていた。しばしば治療プログラムは、子供の障害をじゅうぶんに見きわめずに作られてきた。Johnsonは最近次のような警告をしている。「明確な定義づけやじゅうぶんな診断調査なしでは、特殊教育プログラムに子供を入れる根拠がなくなってしまう。」
規範となるものがないので、教師や学校の看護婦や言語治療士は学業不振児童の診断評価のために何をなすべきか適確な知識をもっていない場合もある。専門家の仕事内容が明確にされていないので、良心的でないイカサマ治療が横行することにもなりやすいのである。
「奸智にたけたイカサマに� ��して、子供のように丸め込まれたりせず、おとならしく怒りと嫌悪を感じるようになったのはつい最近のことです。不正に対する憤りは爆発しました─一見快適で押しつけがましくはないが、臆面もなく利己的な研究所。問題を複雑にし、不安をつのらせるばかりで、信じられないほどでたらめな仕事ぶり。魅力的でもの柔らかにほおえむだけのソーシャル・ワーカー。詰問しないかぎり何も言わずとぼけてやさしくほおえむだけで、つかまえどころのない年寄り先生。10日間も通って、やっと結果を聞けると思ったのに、そんな調子で結局なにもはっきりしないのです。」
研究所と呼ばれる所で子供の診断をしてもらった自閉症児の母親は、こんなしんらつな調子で、くやしさと失望をぶちまけている。
情緒障害児、問題� ��動児、学習障害児、精神薄弱児など、診断評価や治療や教育のためにチーム・アプローチが必要とされる子供をもつ親から同じようなくやしさ、怒りをよく聞かされる。
理由なく延期されたり、行きあたりばったりの不都合なスケジュールや面会、職員との会合、ぶしつけなプライバシーの侵害に怒っている。患者も、精神薄弱、テンカン、先天性異常、脳性マヒ、未熟、そして読めない、落ち着きがない、言語障害などの学習障害と多様な「発達障害」をもっている。特に、診断の結果がわかりやすく説明してもらえないとか、診断報告書が他の治療関係者(学校、クリニック、医師、セラピスト)にひどく遅れて送られたり、ときには全く送られなかったりするという不満をよく聞く。
チーム・アプローチの一例として 、ニューメキシコ州アルバカーキのLovelaceクリニックを紹介しよう。このクリニックは大きなもので(医師75人、他に同等の資格をもつ職員がいる)、人口35万人ほどの地域にあり、そのほかにもニューメキシコ州全体や近隣の州からの照会に答えている。
職員構成
子供の発達診断評価に有能かつ経験ある専門家を備えた私立の施設のチームもたくさんある。しかし精神衛生計画ですでに行われているように、チーム以外の地域の専門家がもっとどんどん招かれてよい。
Lovelaceクリニックでは、職員構成は次に述べるようになっている。
A.医療
1. 初診段階
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チーム・アプローチによる診断では、診断のまとめをする者が必要である。必ずしも医師がこれにあたる必要はないが、たいていは医師が行っているようである。一般医、小児科医、精神科医などがこれにあたってよいが、次の2点を忘れてはならない。─①一人で診断評価をするのではない。②総合しまとめるのが役割である。診断資料を集めてその結果と対策を、学校、家族その他の治療関係者に提示できるように必要な診断テスト、検査を手配するのが役目である。これは医師にきらわれやすい仕事である。診断をまとめる者が必要ではあっても、一人の専門家が他より優越するという意味ではない。おのおのの専門家が必要であり重要である。しかし診� �を有効なものにするためには、おのおのの診断資料が統合されて関係者に配布されなければならない。
われわれのところでは、たいてい小児科医が診断のまとめを行っている。医療照会を受けて家族との連絡がとられると、学校ではどのように対処したらよいか相談したり、家族との懇談などにあたるのがチームのリーダーである。また、患者の発達、健康に関する情報を集めたりする。学校に依頼して、①学業成績、②クラスや校庭で観察される性向などに関するレポートをもらうこともする。
詳しい生育歴、健康診断の結果によって、さらに検査や研究が必要であるかを決める。身体異常が認められる場合には、血液、尿、脊髄液などの検査が必要となる。頭蓋骨レントゲン撮影、骨年齢、脳波図、筋電図なども必要で� ��る。
2. 医療検査
a.眼科検診:親や教師は、学習障害や学校問題などのある子供には、視覚異常が多いと考えがちである。しかし実際には、視覚異常のようにみえる発達障害が知覚や情報を伝達する神経過程の欠陥であることもあり、眼科医はこれを家族に理解させるうえで重要な役割を果たす。初診で斜視や他の異常が発見されると、眼球の検査が行われる。
b.神経科検診:主治医でもじゅうぶんに神経学的検診はできるが、局所微候、異常発作、微妙な身体特徴などに関しては専門医との相談が必要である。(神経科医によっては、普通児をみる機会があまりない者もいる。小児科医は定期的にあらゆる年齢の普通児をみるので、ちょっと注意すれば、正常の発達からの微妙な逸脱にすぐ気づくはずであ� �)。すぐれた神経科医は、他の専門家が見のがした重要なことがらに気づいて大いに貢献できる。
c.耳鼻・咽喉科検診:年齢より遅れた身体機能を示すときには、ろう、あ、難聴、口裂蓋、顔面異常などが調べられる。慢性であまりひどくない耳の病気は、聴覚に大きな障害となる。話しがよく聞き取れなかったり、意味が理解できなかったりすると、親や教師は聴覚障害がないかと疑う。耳の専門家は耳の機能に関して家族に詳しく説明できる(聴力テストにはいつも話しコトバや言語能力のテストが含まれる)。
d.精神科検診:主治医やチームのメンバーの中には、重要な情緒─環境要因の究明には、精神科医の検診が必要と考える者もいる。精神科医は診断だけでなく、子供の問題に加えて、大きな情緒問題をも� ��親に長期にわたるセラピィを行うこともできる。
e.他の医療相談:脳性マヒの事実があればリハビリテーション専門医や整形外科医が加えられる。複雑な問題は外科医、皮膚科医、アレルギー専門家、内分泌専門家その他の専門家に相談される。もちろんクリニックでは、このような相談のために必要な人を、いろいろな方法で確保しようとする。
B.心理治療
発達障害児や学校問題児の診断に最もたいせつなのは臨床心理学者である。知能テスト、知覚統合テスト、性格テスト、情緒テスト、ほかにも子供の能力、障害、適性、情緒問題、自己像などを調べる心理機能テストを行う。心理学者は、子供の障害を悪化させている社会や家族の問題をつきとめる。
診断に加えて、家族のカウンセリングや教育治療プログラムを立てたり、遊戯治療、心理治療、その他いろいろな治療プログラムに心理学者は大きな役割を果たしている。心理テストは学校でも受けられる。そのような場合には、臨床心理学者はそれまでに行われたテストを見直し、家族や患者に面接したうえで、必要な検査を行う。学校では無料で行われるので、家族にとっては費用の節約になる。
C.言語� �療(聴能学を含む)
発達障害児や学校に適応できない児童には、言葉の明瞭さを欠くものが多い。話しコトバの機能については、構音、非流暢性、どもり、などに関する資料を量的に充実させることに努力がはらわれてきている。
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それに加えて、言語機能全体の評価がなされる。患者は「話し言葉」と「言語」を混同するかもしれない。「コトバ」は視覚、聴覚記号を取り入れ、組織し、過去の経験、記憶、情感と連合させて書いたり話したりして、コミュニケーションを行うことである。「言語」は特定の民族だけのものではないことを忘れてはならない。たとえば英語を使わないアメリカ人の家庭もある。話しコトバの使われない家庭(両親がろうの場合)で不健全な言語発達を招きやすいように、2か国語が使われている家庭でも言語発達は遅れがちである。
医学と心理学のように、話しコトバと言語は診断だけに限られない。学校や他の機関がじゅうぶんな治療を提供できな� �場合は、クリニックの治療士から言語治療を受けられる。言語治療プログラムは、医学的、教育的、精神医学的、心理的な治療とよく協力して行われる。
話しコトバや言語の正しい評価は、空気伝導、伝導などの聴能検査と、音の識別の両方によって行われる。見のがされやすい難聴に、高音部だけが聞こえないというのがあるが、これは入念な聴能テストによって発見される。見のがされやすいと言われるのは普通に聞こえているようであるが、高音が聞こえず子音の識別ができないからである。そのため、よく聞こえているようではあるが、意味を全く「理解」していないということになる。そのほかにも、cortical evoked potential, conditioned response audiologyなど特別なテストが必要である。
D.教育的措置
教育専門家をチームのメンバーに加えているところもある。実際には行動、学業、治療学習の必要性について評価の助けをすることに学校教育関係者も大いに関心を示している。学校の教職員、看護婦、カウンセラー等は、評価の資料となるいろいろな情報を提供できる立場にある。第1回目の評価に基づいて、子供のために教育プログラムを組むこともできる。
学校教育関係者は医療を受けさせ,言語治療,読み方治療指導,その他必要な治療を受けさせるようにとりはからうだけでなく,治療プログラムの細かい点にも注意を払う。学校のよいところは、診断評価チームに継続的に情報を送ったり、診断の正確さを増す助けをしたり、チームの将来の研究にも起用できるように情報を提供したりできることである。第1回目 の評価のあとで、学校の成績や家庭での行動を観察比較し、評価が適切なものであったかどうかをみる手ががりとすることもできる。
E.その他
家庭での問題全般にわたって援助するために、次のような活動が必要である。社会福祉面の調査、カウンセリング、栄養、相談一般、保健婦の家庭訪問、在宅教育、生活保護、職業指導、理学療法職業更生指導、そのほかにも必要に応じた援助。ここのクリニックでも全部ではないが行っている。患者の住む地域を単位に与えられる援助もほかにある。
診断評価の手順
A.照会
評価は次のような段階を追って行われる。学校や専門家から照会されたり、親が自発的に連れて来たり、クリニックの一般検査で発見されたりして、患者はクリニックに来る。
たいていは、一般検査中にクリニックの職員がもっと徹底した検査が必要なことに気づく。たとえば、オージオロジストは「耳の聞こえの問題」ということで子供の検査を依頼されるが、子供の受容言語障害の原因が聴覚でないと判断すると、もっと徹底した総合検査を受けるように、家族の主治医にすすめる。家族と主治医は、このすすめに従うか否かを決める。クリニックが地域の医師と親密な関係にあれば、クリニックの役目は診断評価と治療プログラムをたてるだけであり、主治医にとって代わろうとしているのではないことがよく理解さ� �ていて、クリニックに属さない医師もすぐに患者を評価のためにクリニックに照会する。徹底した総合評価ののち、詳しい検査結果と勧告が主治医のもとに患者とともに送りかえされる。
B.初めて親と話す
電話または直接に家庭を訪問して、医師(コーディネーター)が、親に次のようなところからの報告を取り寄せることをすすめる。
1. 学校から、学年、行動記録、検査記録、成績など。
2. 今までの医学的検査、その他の検査記録。
C.初期訪問
よく管理運営され、じゅうぶんに職員のいる私立クリニックでは、できるかぎり早く子供とその家族に会うようにしている。親が重大な問題をかかえていることに気づき、すぐに何かしなければならないと思っているときに放って置くのは、不必要なことであるばかりでなく、耐えがたいものである。一日延ばすことは、それだけ治療を遅らせ、学校にも子供にも教師にも余計なフラストレーションを与えることになる。
大学のテスト不安
学校その他からの報告は、最初にクリニックに来る前にそろえてあれば、理想的である。第1回目の面接では、詳しい生育歴、医学検査の結果などについて詳細を得られるように、じゅうぶんな時間がかけられなければならない。まず親が問題をどう考えているか、それから子供、家族、隣近所、学校などの状況が聞かれる。妊娠中、出生時、乳児期の様子、家族の健康、患者の病歴(発作、高熱、昏睡、外傷、その他中枢神経に影響を与えたようなケガ等)、学校の成績などについて詳しく聞かれる。家族歴も、知能発達遅滞、脳性マヒ、先天性異常、テンカン、偏頭痛、学校ぎらい、ノイローゼ、社会生活問題(非行)、その他に中枢神経障害の徴候とみられるものを捜� �ために聞かれる。
身体検査も普通の検査では見のがされるような話しトバ、情緒、容貌、知識、記憶、リズム、中枢神経組織の統合状態などにも注意して行われる。そのために、言語、知覚、記憶、概念化などをテストできるような問題を与える─絵を描かせたり(どちらの手を使うかを見る)、字を書かせたり、数を数えさせたり、色の名称を言わせたり、日時を言わせたりする。
専門的な検査を行うだけでなく、家族には次のことに関して詳しく説明が与えられる。
1. 評価のためにかかる費用。
2. 面会時間を決めたり、テストが行われる理由。脳波検査の是非、心理学と精神科の別、話コトバと言語の別なども説明される。
3. 評価の概要とそれに必要な時間。
4. 診断が終わったところで、医師(その他の専門家がいっしょになって)が、総合所見を出すための会合があることを家族に知らせておく。
D.評価のすすめ方
家族と子供はなるべく早く都合のよいときに専門職員と会う。おのおのの診断所見は、クリニックの公式所見として、他の関係専門職員や子供の検査にあたった者に配られる。この記録がじゅうぶんでないときは、クリニック・チームのメンバーが集まって、種々のテストの結果、その解釈、疑問点、どう対処すべきか等について話し合いがもたれる。
E.検査結果の解釈
過去の記録が集められ、検査結果が出されるとクリニック・チームのメンバー何人かとコーディネーターが両親に会う。このときチームのメンバー全員と両親を会わせたりして両親を圧倒しない。片親だけでなく両親と会うことにより、片方がもう一方に、こみいった複雑な事情を説明したりせずに済むようにする。ケースワーク(社会福祉部)とか、祖父母、友人、ほかにも事情を知っておくべき人がいれば、このときにいっしょに会うようにする。もし適当と考えられれば、本人もいっしょでもよい。疑問点はどんどん質問させるようにする。そのためにもじゅうぶんな時間をとっておくべきである。
1. まず親にその後子供がどうしているか聞いたりして、この会合を始めるのがよい。ここでもう一度、この問題に関する親の考えを聞くのもよい。
2. 正直にごまかさずにしかも家族の恐れ、疑い、罪悪感などを考慮して、診断を説明しなければならない。生徒が思うように学ばないときに教師が自分を責めるように、親もしばしば自分たちが問題の原因であると思い込みがちであるから。
3. 親がすすんで質問したり、気になる子供の行動についてきいたり、子供や自分自身または診断内容について思うままを素直に言えるようなふんい気をつくる。
話し合ったり、質問したり、どうしたらよいか考えたり、治療法を決めたり、これからの経過をみるために会う時を決めたりしたら、この会合で話し合ったこと全般にわたり、まとめられた記録を親に与える。
5.この問題のまとめられた記録を学校や主治医、その他治療関係者に渡してもよいか、親の承諾を求める。同じものを親に一部渡すのもよい。
6.これからあとの面会、再テスト、再検査などの予定を組む。もし投薬の必要があれば、服薬時間も決めたり、副作用などについても説明される。言語治療や心理治療のスケジュールも決められる。
7.同様な障害をもつ子供のための地域団体に参加するようにすすめる。このような団体には、関心の深い親、教師、カウンセラー、その他の専門家が参加している。(このような団体がない場合には、新しく設置するための援助が、すでにある団体から与えられる)。
F.診断結果の報告
総合診断結果を出す会合で書きあげられた報告書が、治療関係者に送られる。親はほかにも報告をほしがるだろうが、学校や(言語治療士などの)特別治療関係者や治療施設には、簡潔で正確で、実際的報告が必ず送られなければならない。クリニックに照会した医師はもちろん報告を受ける。報告は書かれたものであるが、学校や特別クリニック、その他の場所で必要に応じて補足説明が加えられる。家族にもこの報告書を送ってもよい。移転したり、医師を変えたりしたら、そこへ報告が送られることを親に知らせておくのがよい。
治療関係者への報告書の送付がひどく遅れたり、全く送られない場合もあるという不満が総合クリニックに対してある。評価期間中に行われた種々 のテスト、検査のおのおのの要旨を総合して、有益で簡潔で完全な報告書を作成するのは、一人でもじゅうぶんにできることである。評価に関してはおのおのの担当者に直接聞くようにと書き添えればよい。
報告書の中に使われることばは、本人や親が見て誤解したり驚いたりしないようにじゅうぶんに注意して選ばなければならない。親や教師は「脳障害」、「脳損傷」、「精神薄弱」などという言葉にはとまどう。「意欲なし」、「怠け癖」、「頑迷」などという価値判断を伴うことばも使わないようにすべきである。診断報告に使う名称、術語にはじゅうぶんすぎるくらいの注意が必要である。
G.イカサマ治療
学習障害をもつ子供に関する記事に次のようなものがある。
「読み方指導相談所というたぐいのおおげさな宣伝をする私立の施設で、心配性の親をよく見かける。こんな所の多くは、おざなりで訓練もじゅうぶんに受けていない指導員しかいない。しかもこんな所にかぎって、子供の障害をおおげさに言いたて、近代的な公立学校に比べたらずっと劣る設備で、臆面もなく治療しようとする。東部のある私立学校では、顧問と称する人たちの長ったらしいリストを見せ、一学期2千から3千ドルもの授業料をとっている。ニューイングランドのある私立クリニックでは、一連のテストを行うのに百ドルも払わせ、『失読症』などという診断を下して、親の心配をあおる。こんな所の所長の言うことをまに受けたら、『1~2� �程度の遅れている子供はすべて失読症である』ことになってしまう。ところが『程度』には地域差があるものである。南部のある州では24ドルで『知覚障害児』のための練習用セットが買える。ところが、心理学者に言わせれば、これはなんの価値もないものだそうである。
数百もある夏期キャンプも最近は『読み方指導』などと称することをやって宣伝している。ところが、実際の『読み方指導員』は、経験もなく、子供たちの来る1週間くらい前に指導概略の説明を受けるだけである。
イカサマを見分けるために、Temple大学の医学部のDr. Roger D. Freemanは次のことに注意するように述べている─実績があるかどうか、子供が劣っている点を補うような訓練をしてくれるかどうか。この種のクリニックに子供を連れて行く前には、上記の2点を確かめるのがよい。また子供の発達問題を扱っている近くの大学とか病院に聞いて確かめるのもよい方法である。」
もう一つの警告:診断から治療まで一人で完全にできるなどという専門家には注意しなければならない。そんな簡単なものではない。とても一人の手におえる仕事ではないのである。
H.費用
評価はむずかしく時間のかかる仕事である。親もこのことをよく理解してくれて、たいていは協力的であり、適当な金額であって、支払い能力があれば、すすんで払ってくれる。面会の回数、長さにより費用はたいへん違ってくる。たいていは110ドルから200ドルである。
要旨
小論では、学習障害、発達障害をもつ子供とその家族の診断、治療を行う大きな医療クリニックの職員構成と治療手順を紹介した。よく組織されじゅうぶんに職員がいるクリニックでは、教育医療計画を立てるために詳細な診断を必要とする家族の要望にじゅうぶんにこたえている。しかしもっと多くの医師、特に小児科医が、各自の住む地域でその専門を生かして、多分野にまたがる診断評価の調整をすることが望まれる。
学校の特殊教育クラスや教師がじゅうぶんでないと同じように、必要な診断評価を行う大学や総合クリニックも決してじゅうぶんでない。患者の要望を満たすためには、できる者が協力してやっていかなければならない。
(門奈 逸代訳)
参考文献 略
(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「リハビリテーション研究」
1971年4月(第2号)35頁~41頁
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